この記事では「翻訳者をめざす方におすすめしたい本」をご紹介します。
- 翻訳に興味があるけど、何から手をつけていいかわからない
- 独学で翻訳スキルを身に付けたい
- まずは翻訳が具体的にどんな仕事か知りたい
という方を想定していますが、「翻訳を学びたい方向け」の4冊は翻訳の仕事を始めたけど上手く訳せず悩んでいる方にも大変役立つと思います。
翻訳者をめざす人におすすめの本7選
以下では「翻訳者とはどんな仕事かを知りたい方向け」「翻訳を学びたい方向け」の2つのセクションに分けて、おすすめの7冊をご紹介します。
翻訳者とはどんな仕事かを知りたい方向け
①:翻訳というおしごと~翻訳者に「未来」はあるか?
「翻訳業界ってどんなところ?」という基本的な説明から、第一線で活躍する翻訳者10名のインタビューを通じた具体的な仕事の様子まで、翻訳の仕事のイメージを掴むのに最適な本です。
特に、今後の翻訳業界の動向やこれからの翻訳者に必要な資質・能力が詳しく解説されています。
この本が出版されたのは2016年ですが、オンライン講義の普及や機械翻訳についても既に言及があり、今読んでも情報が古いとは感じません。
また、「留学経験がなくても大丈夫?」「どの程度の英語力が必要?」といったよくある疑問にも真正面から答えているので、翻訳に興味がある人ならかなり面白く読めると思います。
著者の実川元子さんは翻訳家・ライターとして活躍されていますが、彼女の英語勉強法も披露されていて勉強になりました。
私が転職を決意して最初に読んだのがこの本です。
今読み返しても「この本を読んでおいて良かったな」と思います。
②:新版 産業翻訳パーフェクトガイド
翻訳という仕事の概要は「翻訳というおしごと」で把握できますが、特に産業翻訳に関心がある方はこちらの本も参考になります。
「翻訳というおしごと」は産業翻訳・出版翻訳・映像翻訳の3分野をカバーしており、全体像を掴むための本です。
一方、こちらは産業翻訳に特化し、専門分野別の効果的な学習法や収入事情、お役立ちツール、機械翻訳の動向、求人やスクール情報など、さらに具体的な内容がまとめられています。
この本まで読めば、翻訳者をめざすにあたって必要な知識は十分です。
翻訳を学びたい方向け
次に、翻訳を独学で学びたい方におすすめの本を紹介します。
翻訳者をめざすというとスクールに通う方も多いですが、私は職場のOJTと書籍で翻訳を学びました。
映像翻訳や出版翻訳ならスクールの講座を受けたほうが確実かもしれませんが、
産業翻訳は市販の書籍で独学→社内翻訳者として経験を積む(or働きながら学ぶ)という流れも可能です。
以下で紹介するのは、受験英語の「英文和訳/和文英訳」からプロとしてお金がとれる「翻訳」への橋渡しとなる本です。
③:越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 決定版
翻訳の基礎となる読解力の向上におすすめなのが、「ダ・ヴィンチコード」などを手掛けた翻訳家・越前敏弥氏のこの本。
同じ著者の「日本人なら必ず誤訳する英文」と「日本人なら必ず誤訳する英文・リベンジ編」の2冊を組み合わせて再編集した決定版です。
基礎編→難問編→超難問編→活用編と、だんだん難易度が上がる構成になっています。
翻訳をするにあたり、英文を正確に読むことは最重要。
しかし外国語である英語を正しく理解するのは簡単ではありません。
この本はタイトルどおり、日本人が誤解しやすいパターンの英文をたくさん紹介しつつ、正しく読み解くための知識や考え方をわかりやすく解説してくれています。
一般の英語学習者も対象にした本なので「英文読解」に重点を置いていますが、翻訳のコツも少し書かれていて勉強になりました。
英文和訳をするならまずこの本を読んで英文法を再確認し、誤訳を避けるために気をつけるべきポイントを学んでおくことを強くおすすめします。
④:英文翻訳術
英文和訳に必要なテクニックを網羅的・体系的に学べる名著。
①短い例文を用いた解説と練習問題、②演習(バベル翻訳学院の受講者の訳文+著者のコメント、模範訳文)という構成です。
文庫なのでコンパクトですが、非常に濃い内容となっています。
最初に読んだときは、難しくてなかなかページが進みませんでした。
それでも最後まで読み通せたのは、この本が純粋に面白かったからです。
訳文の作成プロセスが順を追ってわかりやすく説明されているので、
「翻訳家はこんなことを考えながら訳しているのだな」
ということがわかり、目からウロコが落ちまくりでした。
この本で学べる思考やテクニックは、産業翻訳でもそのまま応用できます。
ただ、初心者が1回読んだだけではほとんど身に付かないと思うので、最低3回は通読することをおすすめします。
私はこの本を読んでから職場の先輩に「上達したね」と褒められるようになりました。
何度も繰り返し読み、著者の思考プロセスを血肉化するのがプロへの最短ルートだと思います。
⑤:日英 実務翻訳の方法
日本人翻訳者は和訳の仕事が7〜8割を占めるとも言われますが、近年は英訳の依頼も増えています。
また、日英翻訳ができる日本人が相対的に少ないため、英訳もできれば仕事の獲得や収入アップにも繋がりやすいです。
実際、私の職場でも英訳依頼が多く、翻訳者として今後生き残るためには英訳も必須だと肌で感じています。
ただ、外国語である英語に訳すのは難易度が高く、苦手意識がある方も多いかもしれません。
そこで、産業翻訳者(実務翻訳者)を志す方におすすめなのが「日英 実務翻訳の方法」です。
初心者にもわかりやすく英訳の手順が示されており、コンパクトながら中身は濃いです。
後半では、英訳時のインターネット活用法や演習問題もついているので、これ1冊で実践レベルまでカバーできます。
私がこの本を手に取ったのは最近ですが、もっと早く読んでおけばよかったと思いました。
というのは、数年かけて経験的に身につけてきた英訳の手順が、この本で説明されていたからです。
特に、著者が説く「日本語の前編集」の重要性は英訳を始める前に知っておいたほうがよいです!
英訳の基礎を身に付けたい方はぜひお手に取ってみてください。
⑥:語学力ゼロで8ヵ国語翻訳できるナゾ
この本では「稼げる翻訳者」の思考とノウハウが学べます。
著者は翻訳スクールにも通わず、実務未経験からフリーランス特許翻訳者となり、二年目には年収1300万円を達成したという凄い方。
よほど高い英語力があったのだろうと思いきや、
学校のテストで平均点を割ることなど当たり前で、英検は三級どまりです
とのこと。
外語短大を卒業されているので「語学力ゼロ」はさすがに言い過ぎだと思いますが、翻訳者として年収1000万以上というのは本当に凄い数字です。
(それも、翻訳を始めてすぐに達成しているところが驚異的!)
著者の主張は、
単に語学力を伸ばすのではなく、
翻訳に必要な「問題解決力」を磨くことが重要だ
というものです。
その具体的な内容として、
・どのように的確な訳語に辿りつくのか
・スピードを上げるための作業手順(著者の処理量は、平均的な翻訳者の5〜6倍)
・ネット検索、リサーチの仕方
・効果的なツールの活用法
など、すぐにでも真似できる実践的なノウハウが披露されています。
私はこの本でワイルドカードの使い方を学びました。
個人的にハッとさせられたのがこの言葉。
一般に言う「語学力」と、いい仕事をするための外国語の力とは、切り離して考えなければならない
「やみくもに英語力を高めようとするのではなく、自分が専門とする分野の翻訳に必要な英語に絞るのが効率的」
というのは、まさにそのとおりだと思いました。
翻訳は「語学のプロ」などと言われるので誤解されがちですが、
翻訳力というのは、著者のいう「問題解決力」にかかっているのですよね。
英語力は訳文作成という問題を解決するためのツールの1つである、という考え方です。
この発想の転換を早いうちにできるかどうかは、翻訳者人生を大きく変えると思います。
もちろん英語力が高い人は有利ですが、大事なのは他のスキルも合わせた「翻訳力」。
この本では翻訳で稼ぐためのヒントがたくさん得られるので、ぜひ読んでみてください。
⑦:英和翻訳表現辞典
普通の辞書には載っていない、翻訳の現場で使える訳語が学べる辞書です。
多くの翻訳初心者が悩むのは「辞書に適切な訳語が載っていない」ということではないかと思います。
私も英和辞書を引いては「たしかにその意味なんだけど、この訳文で使うのはなんだか不自然。でも、ぴったりの訳語が思いつかない。。」と毎日のように頭を抱えています。
そんな悩みを抱える翻訳者に多くのヒントを与えてくれるのが、この本です。
たとえば、以下の文章の”compensation”をどう訳すか、ちょっと考えてみてください。
読者からの投書を募集する雑誌記事の一部です。
Unfortunately, we are unable to give any compensation or credit, but…
あいにく、○○をお支払いすることも、お名前を掲載することもできませんが、…
出典:「英和翻訳表現辞典」141頁
compensationを辞書で引くと、「賠償」「補償」「報酬」などが載っています。
この中だと「報酬」が近いかな?という気がしますが、なんだか大げさな感じがしてしっくり来ないですよね。
著者の中村保男氏は、このcompensationを「謝礼」と訳しています。
言われればそのとおりだと納得するのですが、
こういう”こなれた”訳ってなかなか思いつかないのですよね。。
本書にはこのような珠玉の訳語が800頁以上にわたってびっしりと詰まっています。
訳語だけでなく、どのような文脈で使うのかがわかるよう例文も載っているので、とても勉強になります。
一流翻訳者の長年の経験とスキルから生まれた「ここにしか載っていない」訳語と解説は本当に貴重なもの。
少しずつ読み進めていくことで、日本語表現の幅が大きく広がるとともに、言語センスが上がること間違いなしです。
番外編:村上春樹翻訳(ほとんど)全仕事
村上春樹氏が手がけてきた翻訳の仕事を、本人のコメント付きで振り返る本。
ですが、多くのページが割かれているのは翻訳家・柴田元幸氏との対談です。
対談はお二人の「翻訳」に対する考え方、翻訳作業の様子や裏話、そして翻訳への深い愛が伝わってくる、とても面白い内容でした。
文芸翻訳の話ですが、実務翻訳にも通じるところがあります。
たとえば、こんな発言が印象に残りました。
・字面どおりに正しいのが必ずしも正しい翻訳とは限らない(柴田氏、107頁)
・僕は翻訳家というのは自慢しちゃいけない職業だと思っているんです。
だって、こちらが何かひとつを自慢している間に、人々はぜったい三つか四つの誤訳を見つけているからね(村上氏、110頁)
・どんなに難しい内容でも、一回読んで内容がいちおうすっと頭に入るというのが、優れた翻訳だと思うんです(村上氏、115頁)
数々の名言の中でも感銘を受けたのはこの言葉です。
翻訳というのは一語一語を手で拾い上げていく「究極の精読」なのだ。
そういう地道で丁寧な手作業が、そのように費やされた時間が、人に影響を及ぼさずにいられるわけはない。
(12頁)
「究極の精読」
翻訳を表現するのにこれ以上的確な言葉はないですね。
実際に翻訳をしていると、この表現がとても腑に落ちます。
翻訳するには「だいたい分かった」ではだめで、原文を限りなく100%に近い精度で読み込む姿勢が求められるのですよね。。
ただ字面を追って読んでいるだけでは行き着かないところまで、文章の意味を深く考える訓練になります。
そういう意味で、翻訳って実は読解力アップに最高のトレーニングかもしれませんね。
村上×柴田の翻訳本としては、翻訳夜話も面白いです。
東大生・翻訳学校の生徒・現役翻訳者の質問に2人が答えるのですが、かなりディープな内容まで話されています。
また、2人が同じ短編小説を訳した「競訳」も2編収録されており、原文も載っています。
じっくり比較すると2人の言葉のチョイスの違いが分かって面白いだけでなく、とても勉強になりました。
翻訳好きにはたまらない1冊ですが、文芸翻訳について深いところまで掘り下げて話しているぶん「実務翻訳とは少し違うかな?」というところが結構あった印象です。
翻訳者として働いて少し経ってから読んでみると、より楽しめる本ではないかと思います。
おわりに
長くなりましたが、お読みくださりありがとうございました!
最後に今回ご紹介した本をまとめておきます。
これから翻訳を始める方はまず「越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 決定版」と「英文翻訳術」に取り組むのがおすすめです。
この2冊をしっかり読み込めば、あとは実務経験を積むだけというレベルに行けますよ。
自分の翻訳力を試してみたい方は、翻訳コンテストに挑戦してみてはいかがでしょうか?
こちらの記事でまとめていますので、よかったら参考にしてください。